極私的2007年のBest「Portal」

ハーフライフ 2 オレンジボックス【日本語版】

ハーフライフ 2 オレンジボックス【日本語版】

今年のゲーム業界は近年でも類を見ないほどの傑作/大作が数多くリリースされたのが印象的だった。国内では7年ぶりに再生した「高速カードバトル カードヒーロー」や、メタRPG的モチーフを高いレベルで租借し、別ジャンルに組み替えた「勇者のくせになまいきだ。」やグラフィック/ゲームデザインのハイセンスさに舌を巻く「PATAPON」、ヴァニラウェアの新作「オーディンスフィア」*1など、小品でありながら非常に良質なタイトルが多かったように思う。もちろん「スーパーマリオギャラクシー」も忘れてはいない。

しかし、今年の海外のビデオゲームシーンの充実さは正直異常だった。

各種海外メディアが軒並みGame of the yearに挙げる「BioShock」(PC) 、スケボーゲーム=トニーホークという図式が当たり前のジャンルに勝負を挑み、そのパイを半分以上奪い取った*2「Skate.」(Xbox360/PS3)、完全な外注制作ながら、グラフィック/サウンド(敬愛してやまないvirt!!)/バランス全てが近年の内製作品以上にコナミの血を色濃く受け継いだ「Contra4」(NDS)、他にも「CoD4」や「Halo3」(Xbox360)、「Mass Effect」(Xbox360)「Crysis」(PC)など、年間ベスト級の作品が今年大量にリリースされている。

そんな粒ぞろいの中でも、僕がダントツで今年のベストに挙げたいのが「Portal」だ。同じ「OrangeBox」に入っている「Team Fortress 2」のグラフィックのアプローチやレベルデザイン、非常にセンシティブなバランス取りにも感動したが、「Portal」の完成度には本当に腰が抜けた。

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まず、「空間をつなげる二つの穴を作成してマップを攻略する」という根幹のアイデアが素晴らしい。「空間をつなげる」レベルのネタを思いつく事はそれほど難しくないが、そこに「スピードの維持」を加える事で、システムの可能性が膨大に広がっている*3

しかしこのシステムには問題があって、複雑ではないが、感覚的に理解する事が難しい。「Portal」ではその問題を秀逸なレベルデザインによって解決している。このレベルデザインは非常に”任天堂的”な思想によって組み立てられていて*4、プレイヤーに気付かせないデザイン側の適度な誘導と、プレイヤーが思考し、解決することで深くシステムを理解させる事に成功している。これにより、プレイヤーはストレスなくシステムを学習し、ゲームの中盤になれば直感的に思考、操作できるようになる。

そして、ゲームをただのパズルで終わらせない膨大かつ緻密なバックグラウンドに基づいたストーリー。これも本当に素晴らしい。パズルゲームにおいてシナリオは往々にして蔑ろにされがちだが、「Portal」ではゲーム開始時「新技術の臨床実験」という状況設定のみが知らされ、ステージ進行に伴って徐々に全貌が明らかにされていく。このハイクオリティなストーリーが、プレイヤーのモチベーションを高め、またゲーム全体を美しくまとめ上げている。

断言するが、この「Portal」を遊ばずにFPSの将来について語るような評論家、編集者、レビュアーの意見は全て無視していい。

ただ正直な話、僕はこの「Portal」を日本人が作れなかった事が何よりも悔しい。映画的なストーリーやデザインセンスはともかくとして、ひとつの突出したネタを軸に作品を作り上げる思想は、横井軍平を始祖として連綿と日本人が得意としてきた仕事のはずだからだ。

今日本のゲーム業界が警戒する相手はEAでもActivision Blizzardでもなく*5、Valveだと僕は思っている。

しかし前述の「勇者~」や「PATAPON」を初めとするコンパクトな意欲作が再び目立つようになってきた事は救いで、ここ数年迷いのあった日本の開発の方向性がいい形で絞れてきた事を感じさせる。

来年こそは、今年世話になった分、極東からの強烈なアンサーを見せ付けてやろうじゃないか。

それでは、よいお年を。

Portal – Teaser Trailer


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公式トレーラー。

Portal – Credits Song ‘Still Alive’


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Portalのエンディングテーマ「Still Alive」。歌詞もまた世界観を補間する重要なヒントとなっている。素で聴くだけでも十分いい曲だが、ゲームをクリアした後に聴くと感動もまたひとしお。

*1:ヴァニラウェアはIGNの「PS2:Best Developer」を受賞している

*2:むしろ操作性の"リアルさ"では10歩先に抜き去った

*3:ゲーム内では「フリング」と呼ばれる。重力を利用して勢い良くポータルに飛び込み、もう一方のポータルからその勢いで強く飛び出すテクニック。

*4:個人的には、ここ最近の内製の作品よりも任天堂的であると言えるほど、模範的なレベルデザインがなされていると思う。

*5:Blizzも物凄く丁寧で妥協のないゲーム作りで尊敬している

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