Life is Strange ( DONTNOD / SQUARE ENIX: 2015)
惨劇はとつぜん
起きるわけではないそんなことがある訳がない
それは実はゆっくりと用意されている
進行しているアホな日常
退屈な毎日の
さなかにそれは
そしてそれは風船が
ぱちんとはじけるように起こるぱちんとはじけるように
起こるのだ
エンドクレジットを観た後、なぜか無性に読み返したくなって、本棚の奥から『リバーズ・エッジ』を引っ張りだして数年ぶりに読んだ。
このゲーム、『Life is Strange』は、アートスクールで写真を学ぶ少女・マックスが、突如「町が巨大な竜巻に飲まれる」という白昼夢を見るところから始まる。
更に、ある事件がきっかけで、突如自分に「時間を巻き戻す能力」が備わったことに気づいたマックスは、5年ぶりに再会した親友のクロエとともに、行方不明になった女子生徒レイチェルを探すことになる。
ゲームは、主人公のマックスを操作し、エリアの探索と各種ダイアログを選択しつつ物語を進め、大量に散りばめられた(マックスやクロエがあっさり死ぬような)誤った選択肢を避けながら謎の真相へと迫っていく、一見オーソドックスなADVそのものだ。
だがこのゲームには他のADVと一線を画すコアメカニクスがある。それは前述した「時間の巻き戻し」だ。
プレイヤーはゲーム中いつでも、時間を”数十秒”だけ巻き戻せる。
つまりADVでよくある「誤った選択によるゲームオーバー」や「相手のリアクション」といった、自分の選択がどのような結果になるか、を(短期的に)全て”答え合わせ”できるということだ。
例えばフリー操作中、キャッチボール中の球にぶつかってケガをする女の子を見つけたら、時間を戻し、教えてあげることでその事故を回避させたりもできる。
プレイヤー(= マックス)はこの能力を使い、トライ&エラーによって、”(プレイヤーが思う)正しい結果”を導き出しつつ、物語を進めていく。
それってスポイラーを読みながらプレイするのと何が違うんだよ、と思うかもしれない。答えがわかっているならプレイヤーが考える余地のない面白くないADVじゃないか、と思うかもしれない。
それが全然、違うのだ。
このゲームが凄まじいのは、この万能すぎる「時間の巻き戻し」のシステムがプレイヤーに突きつける「選択の重さ、取り返しのつかなさ」にある。
完全に矛盾した事を言っているように聞こえるが、事実そうなのだ。
“数十秒”の間なら、何度でも選び直せる。「その瞬間」の決断自体はいくらでも決められる。そこに責任・選択の難しさは存在しない。しかしその決定が、”数十秒”を越えた先、「未来」にどんな影響をあたえるか、どう物語が転がっていくか。そこまで知ることは出来ない。そしてそれが判明した時点ではもう引き返せないし、やり直せない。そこに決断の重みがある。
その決断の怖さ、起こってしまう事への怖ろしさは、ゲームの舞台が「高校」な事で更に増幅する。
クラスメイトへのいじめ、スクールカースト、養父問題、十代の妊娠、ドラッグ、そして進路。高校時代の”平坦な戦場”。このゲームの中で出てくる「分岐」の一つ一つが、ことごとくプレイヤーである自分の記憶を掘り起こす。
あの時あんな事言わなければ、彼女とあんな最悪な別れ方はしなかったのかもしれない。
あの時声をかけていれば、あいつと今でも仲良いままだったかもしれない。
進路だって、今とは全く違う仕事についていたかもしれない。
そんな自分の中の大小さまざま後悔と、主人公であるマックスの取る行動、怒涛のように進んでいく物語。記憶や感傷がないまぜになりながら、プレイヤーは数々の事件や問題に対し、ゲームの中のマックス同様、”道を選ぶ”決断を強いられる。
そしてマックスはこれまでで最も重い、最後の「選択」と対峙する。
この選択は、プレイヤーに文字通り「物語をどう終わらせるか」を委ねる。物語が終わった後、そこから続いていくであろうマックスを含めた登場人物全ての未来のありようを委ねる。
自分はこの決断をするのに半日かかった。ここまでビデオゲームで何かを決めるのに時間がかかったのは、『サンサーラ・ナーガ2』の子竜を何色にするか悩んで以来だった。
そして夜が明け、物語は終わりを迎える。
マックスとクロエの旅も終わる。
…
エンドクレジットが終わり、椅子から立ち上がる。
レコード棚から埃をかぶったSparklehorseの『Vivadixiesubmarinetransmissionplot』を取りだしてかけた。
そして本棚の奥から『リバーズ・エッジ』を引っ張りだして読んだ。
東の空がぼんやり
明るくなってきた朝がやってきたんだ
2016年、最高のビデオゲーム体験のひとつ。
Staygold, Ponyboy.をもっと見る
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