慣れってすごいね – 仮面幻影殺人事件

所謂「ポイント&クリック型」と呼ばれる、極めてオーソドックスなADV。元は携帯電話向けのアプリとして展開されているシリーズ「探偵・癸生川凌介事件譚」の一編*1。この「癸生川~」シリーズは、携帯向けアプリにしては骨太なシナリオ、また、今や絶滅危惧種である本格志向の推理アドベンチャーとしてファンも多く、本作はシリーズ待望のニンテンドーDSへ”昇格”となった初のタイトル。

主人公”生王 正生(いくるみ まさお)”は携帯ゲームのシナリオライター。*2ゲームのネタ探しのため、癸生川探偵事務所に出入りすることが日課で、携帯アプリの他作品同様、本作も生王が事務所へ来訪する所から幕が上がる。

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多人数参加型推理ADV「MO(ミスティ・オンライン)」。βテストへの参加を依頼された生王は、ゲームをプレイするため、癸生川探偵事務所へ向かう。そこで、探偵事務所の助手、白鷺洲 伊綱(さぎしま いづな)と協力しながら、ゲーム内で企画された殺人事件の”捜査”をする。時を同じくして、ゲーム内とまったく同じ状況での事件が発生。生王と伊綱は、オンラインゲームと現実を行き来し、奇妙な事件へと立ち向かう。

とにかくこのゲームでまず目を引くのはなんと言ってもグラフィック。どう見ても商品レベルに達していないキャラモデルがいちいち大見得を切ったポージングで、しつこいくらいにバシバシと演技していく。しかしそれに臆してこのゲームを遊ばないのは非常に勿体ない。大丈夫だ。まるで「くさや」の臭いよろしく、この(はっきりいってヒドい)グラフィックもゲームを遊んでいくにつれ、妙な魅力と空気感を演出しているように感じてくる。(多分これはどう考えても言い過ぎだろうけど)このゲームは、昨今のビデオゲーム開発において各スタジオが非常に苦労している「独自の雰囲気」の獲得に成功している。はず。

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ゲームシステム自体は先述したとおり、何の変哲もない推理ADVのそれ。メモ機能など、UIまわりでの工夫はあるが、ひたすら十分なフラグが立つまで、選択肢とポイントクリックを繰り返す、例のうんざりする仕様上の問題点もそのまま。

しかしそれを補って余りあるのがシナリオ。この「仮面幻影殺人事件」をADVファンの中で”隠れた名作”たらしめているものがこれだ。オンラインゲーム内と現実世界を行き来し、徐々に事件の核心へと迫っていく展開はプレイヤーを飽きさせない。適度なタイミングで登場する個性的な人物やイベントも、基本的にはしっかりとした伏線・理由の元に配置される。

推理ものとしてはやや強引な展開(特に真犯人周辺のくだり)もままあるが、それでもこの手のチンタラ系ADVが苦手な僕が最後まで遊びきれたんだから、良くできている。この作品を作った開発陣には拍手を送りたい。

同じディレクター(石山貴也)が開発したブラッドオブバハムートは大失敗作だけどな!

探偵・癸生川凌介事件譚 仮面幻影殺人事件 Genki the Best

探偵・癸生川凌介事件譚 仮面幻影殺人事件 Genki the Best

*1:スタッフは替わりながらも、現在でもシリーズは継続中

*2:本作のスタッフクレジットにもシナリオ担当として、同名の人物が記されている。つまりそういうこと。


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