安達哲「さくらの唄」上下巻

さくらの唄(上) (講談社漫画文庫)

さくらの唄(上) (講談社漫画文庫)

 これほどまでに赤裸々で、不穏で、心を抉られる作品は読んだことがない。

 読中の感覚や1ページ1ページをめくる時の恐怖などは『シガテラ』に通ずるものはある。しかし、この漫画の不思議なところは、『シガテラ』と違い、『さくらの唄』の主人公である市ノ瀬の住む世界があまりにも僕達読者と乖離しているにもかかわらず、恐ろしく”リアル”な所にある。市ノ瀬を取り巻く環境は、物語の中盤から加速度的に凄まじいものになっていくのだけど、彼の人間性、精神性がどんどん読者の心に入り込んでくる感じがする。それはおそらく、荒唐無稽な環境で囲まれてこそあれ、市ノ瀬のとる行動や考える全てが、僕ら自身がどこかに持つ感情に近いからに他ならない。 

 僕が”青春”時代にこれを読んでいたならば、一体どうなっていただろう?

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