イルリメ「イルリメ・ア・ゴーゴー」

イルリメ・ア・ゴーゴー

イルリメ・ア・ゴーゴー

高校時代、僕には友達らしい友達があんまりいなかったんだけど、そのうちの一人から数年ぶりに連絡が来た。

そいつはまるで小学生がそのまま大きくなったような見た目で(名探偵コナンにもの凄く似ていて)、高3になっても毎月自分の小遣いでボンボンを買って読むようなやつで、FF8を遊んでて泣いてしまうよう純粋なやつで、とても17才とは思えないくらい夢見がちな意見を言ってのけるやつだった。僕とそいつは、お互いの趣味がゲームだった事と、クラスにおけるヒエラルキーのアウトサイドに放り投げられた者同士だった事でよく連んでいた。

そいつはとにかく無邪気で、気の良いやつだったんだけど、それが度を超していたせいか「空気を読む」ことがもの凄く下手だったのを覚えている。たぶん卒業してからもそれは変わらなかったんだろう、時々僕の耳に届くそいつの便りは「仕事場でトラブって辞めた」だの「精神的に参って辞めた」だの、そういうものばかりだ。だからそいつから「元気?」という明るい声を聞いたときはホッとしたのと同時に、僕の口から言葉がでた。「いやおまえが元気なのかよ!」

そいつは、もの凄く驚いたことに2年前あたりから役者を目指して頑張っているらしい。今は事務所に入り、時々テレビの再現ドラマなどにほんの数秒出たりしているんだ、ってマジかよ!

それにしてもこいつは、本当に涙が出るくらいに昔のまま変わってなかった。いつまでも純粋で、今でも自分の思ったことを絶対言う・やってしまうようなやつだった。正直な話、こいつがその道で大成する可能性はもの凄く低いだろう。そいつにはこれまで演技経験なんてものは無いし、顔も良くもないし、個性的なわけでもない。何より僕たちは今年でもう27歳だ。それでも僕はこいつのことを本気で「カッコいい」と思った。

高校時代のクラスメイト達に言わせてみれば「アホじゃねーの」と言われるかもしれない。実際ほぼ勝ち目のない戦いをこいつはしようとしている。それでも、戦わずに無傷でこれからの人生をくすぶって終わるよりも、人生の10年を無駄にするとしても今、刀を抜いたこいつを僕は心の底から尊敬する。

…なんて事はもちろん恥ずかしくて口には出せないので、僕たちは来週一緒に映画を見に行く約束だけして、電話を切った。

イルリメ – 元気でやってるのかい?


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