石ノ森章太郎「ドラゴンクエストへの道」(作画:滝沢ひろゆき)

マンガ ドラゴンクエストへの道

マンガ ドラゴンクエストへの道

ゲーム屋を生業とする人間にとっては、かの聖典「まんが道」と双璧をなすと言っても過言ではない「ドラゴンクエストへの道」。会社に置いてあったのを発見し、相当久しぶりに読んでいたんですが、ダメですね。何度読んでも目頭が熱くなります。

全体的にエンターテインメントしている作りなので、このシナリオの全てがリアルだとはとても思えないですが*1、長い期間を経てついにマスターアップの瞬間、すぎやまこういちが電話越しに「DQ1」のフィールドBGMを鳴らした時、全ての登場人物が涙してしまう下りを読むと、どうしてもグッとくるものが込み上げてきます。

ここまでドラマチックな話が本当だったのかは分かりませんが、それでもマスターアップの瞬間に流した涙はきっと真実だったんだろうと思い、自分が体験してきた同じような感覚が混ざってしまって、どうしようもなくなる訳です。

時代こそ違えど、同じくマスターアップの瞬間の感慨深さは同じなんだろうと思います。たとえ作ったものがクソゲーだろうと、歴史に残る傑作だろうと、10億単位のプロジェクトだろうと、予算1000万未満の携帯ゲームだろうと、その瞬間の感慨深さは同じなんだろうと思います。

大声で叫びたくなる程の嬉しさと安堵と、ほんの少しの寂しさと。

*1:あと登場人物が総じて美形に描かれすぎでした。堀井雄二、Ⅳの頃にはもう簾頭だったじゃん

井上三太「隣人13号」全3巻

隣人13号 1 (バーズコミックス)

隣人13号 1 (バーズコミックス)

隣人13号 2 (バーズコミックス)

隣人13号 2 (バーズコミックス)

隣人13号 3 (バーズコミックス)

隣人13号 3 (バーズコミックス)

僕が貧乏学生だったころ、やむ終えず手放してしまったこの「隣人13号」が、今日「まんだらけ」で結構安く売られていたので買いなおしました。ここしばらく氏といえば「TT2」ばかり読んでいた事もあり、久々にガツンと井上三太マンガの濃厚なガスをページの隙間から吸い込んで大満足。

簡単に作品説明をすると、『小学生時代、激しい”いじめ”にあっていた青年「村崎十三」がとある工務店に就職すると、そこには当時十三をいじめていた主犯格「赤井」が居た。赤井は十三に気づかない。それどころか赤井は幸せな家庭を築いていた。そんな赤井に対し十三は積年の恨みを晴らすべく、心に溜め込んだ憎悪が生んだ凶悪なペルソナ「13号」と共に復讐を開始する…。』っていう感じのマンガです。

この当時の作品群は正直画力も厳しいものがあるし、何より乱雑な描画が読み手を相当数振り落としてしまうけど、それを補って余りある凄さがこの「隣人13号」には堆(うずたか)く積み上げられています。

凄まじいまでのスピード感と凶悪すぎる暴力描写*1基本的に嫌悪感満タンな人物・情景など、それこそ手に持った本からドス黒いガスが漏れてきそうな程のカルマが充満していて、全3巻を一瞬で読み終えてしまうという(1時間かからないですよ)凄い作品です。

で、これは井上三太作品のもつ不思議さなのですが、劣悪なシーンをこれでもかと塗り込めているにもかかわらず、妙に読んでいる側との距離を感じてしまう妙な感覚。13号が物凄い勢い、物凄いテンションでめった刺しにしている所を読んでもどこか白けてしまうドライな感覚。これが僕には逆に恐怖を感じてしまうんですよね。嫌悪感を感じない自分に、というか…。

何よりこのマンガの優れた所は、全編に渡る暴力描写よりも、赤井が十三の事を思い出す時に発する言葉に最もゾッとさせられる所にあります。いじめられる側といじめる側の関係性のリアリズムが、この赤井のセリフに込められていると僕は思います。

井上三太作品(のサブカルっぽさとかが苦手)が嫌いな人も、これは是非読んで見てほしい、正統派マンガの秀作です。

*1:TT2の序盤でもこのテンションは確認できますよね。「卵の白身みてーだ!」

ここ最近、雑誌「漫画アクション」が

恐ろしく面白いです。

郷田マモラ、谷口ジローといったヘッドライナーはもちろん、今週号を読んだらいつの間にか山本康人までもが描いてました。

そして久し振りにマンガの設定だけで驚かされたのが『極道めし』。刑務所の雑居房にいる囚人がただ、「自分が今まで食べた中で最高の料理を延々と語る」だけ。…なんという大胆かつ明確なコンセプト!!このストイックさ、まるで『ワンダと巨像』のゲーム構成の如し!!素晴らしい!!

他にも森下裕美やら川島よしおやら、味のある連載陣が沢山いて、いつのまにか満足度が相当高い雑誌になってました。

最後に(面白さとは別の意味で)ちょっと気になってるものを一つ。同誌で連載されている、ディスカバリーチャンネルの協力の元、人類滅亡から2億年後の世界の生物の進化を描いた『フューチャー・イズ・ワイルド』が、その内容よりも、昔ジャンプでやっていた『恐竜大紀行』そのまんまのスタイルで驚き&懐かしさを感じて、本棚から”本家”の単行本を引っ張り出しちゃいました。いや、『フューチャー~』も面白いんですけどね。

(以上敬称略)

◇Link:株式会社双葉社 | 漫画アクション

月刊コミックビーム 6月号

ついに終わってしまいましたね。タイム涼介「あしたの弱音」。先月号で「エマ」が完結したことよりも数十倍ガックリ来ました。

ギャグマンガでは時々、序盤のギャグマンガ然としたスタイルから徐々に空気が変化して、終盤では全然毛色の違う作品になるってことがあります。この「あしたの弱音」がモロにその流れを汲んでいて、そういう点でも毎号見逃せないマンガだったわけです。

特にこの1~2年では、「能條純一か!」って思ってしまうくらい、毎号毎号カッコよすぎるセリフがポンポン飛び出し、主人公の”弱音”の一挙手一投足にシビれ、まるでドラゴンボールを読み終えた子供がかめはめ波を撃とうとするかのごとく、自分の中のテンションが上昇するのを常に感じてました。特に今号の弱音は最高すぎて、”花の慶次”か弱音か、っていうくらい傾奇者(かぶきもの)具合でした。だからね…。

ぜひ単行本出してくださいよ!エンターブレインさん!てっきり今号で刊行の告知あると思ったら無かったし…。

藤子不二雄A「愛…しりそめし頃に…」

愛…しりそめし頃に…―満賀道雄の青春 (2) (Big comics special)

愛…しりそめし頃に…―満賀道雄の青春 (2) (Big comics special)

2日夜から謎の吐き気と咳に見舞われ、ほぼベッドで正月を消化していた僕ですが、さすがにくだらないテレビだけを観ていても仕方ないので、本棚からコレを引っ張りだして読んでいました。(今日は1,2巻)

マンガ家ばかりでなく、あらゆる種のクリエイターを志す全ての人が一度は読むべき崇高な経典「まんが道」。この「愛…しりそめし頃に…」はその続編です。

既に才野(Fがモデル)と満賀(A)は別室での生活を始めていて、物語は原則として作者本人である満賀を中心に展開していきます(「まんが道」よりも高い比率で)。そのため、このシリーズからはA自身の自叙伝的な要素がより強まっていて、”マンガを描く”ことを描いた「まんが道」とは若干コンセプトが異なっています。マンガを描くことの苦悩と成功、そして20代の青年が抱く将来への不安や恋など、まるで純文学を読んでいるかのような錯覚を覚える、そんなマンガです。

個人的に是非お奨めしたいのは、第2集。このあたりは、F先生がちょうどお亡くなりになられた頃で、巻末にはF先生に捧げた短編「さらば友よ」が収録されています。これがまたかなりグっとくる。コンビ解消以前から仕事場に行き来するような事は無くなれど、二人の血縁以上に深い友情というか絆というか、そんなものが静かに感じられます。藤子ファンは必読です。