ビデオゲームの価格破壊と「火を運ぶ者」

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「インディーバブルが弾ける日、Steamにおける急激な市場の変化を大物デベロッパーが斬る」( http://www.gamebusiness.jp/article.php?id=9717 )
この記事がアップされて以降、一部界隈でsteamのセールラッシュや各種Bundleでの完全なる価格破壊について話題になった。

個人的には何を今更、な感は正直ある。

今から約4年ほど前、ウサギ格闘『overgrowth』で有名な開発会社Wolfire Gamesが小銭稼ぎのために提唱した「Hamble Bundle」は、PWYW(pay what you want)で何本ものゲームが実質数百円の価格で入手できるという、あまりにも欲望に直撃するシステムで、世界中のゲーマーに衝撃を与えた。その波は一瞬で世界を覆い尽くし、大量のフォロワーを生み出すことになった。ソニーやMicrosoft、さらにあの任天堂までもが、「特定の条件を満たすと1本無料」というようなサービスを(常態的に)行うようになっている。そして今やこの極東でも、「バンドル待ち」なんて言葉がカジュアルに出てくるまでに”それ”は浸透した(このあたりの歴史的立ち位置やその始祖となる韓国のバンドルシーンについては翌週さん(@chachadamore)の名記事( http://vgdrome.blogspot.jp/2014/04/2014-2004.html )が詳しい)。

 

さて、現在のこの環境下で、僕らゲーマーがビデオゲームに支払うべき「対価」と、リリース日から間を置かず雪崩のように押し寄せる「セール」にどう向かい合うべきなんだろう。

その答えの一つは、この記事(やたら文字色付けててダサいけど)に書かれているように、 ” 自分がやりたい時に、欲しい額で買う ” 、というのが最もシンプルで正しい事のように思う。

そのゲームはいずれ一気に安くなるかもしれない。Bundle入りするかもしれない。1年前にフルプライスだったゲームが、$1で入手可能になることも最早珍しくない。すると当然、お客さんは安さに慣れ、どんどん鈍感になっていく。PWYWの意味を説いても焼け石に水。前述の翌週さんの言葉を借りれば、「欲望は液体」であり「一度垂らせば下へ下へと広がっていく」。それでもそれはWAREZのような非合法な行為ではなく、あくまで販売元が了承の上で行われている値引きだ。普通のプレイヤーであれば、自分がやりたい時に、欲しい額で買えば良い。

ただ、ただ、twitter上でこれを見つけてしまった時、本当に悲しい気分になった。

 

Steamは75%OFF以下になるまでは基本的に買わない。今すぐ絶対やる、っていうゲーム以外は。

 

(晒すつもりは無いので、彼の名は伏せる。ここではTwitterでの発言を引用させてもらう)

普通のゲームファンだったら別にどうって事ない発言だが、彼はビデオゲームが大好きで、よくTwitter上で様々なゲームのメカニックやレベルデザインなどについて”ゲーム語り”をしている、一部では有名な人間らしい。4gamerのレビューコンテストに参加したり、友人達とUstreamでゲームについて語ったりしているそうだ。そして自作のゲームも作ってもいるらしい。普通のゲームファンとは明らかにその熱量は違う(ように見える)。

もちろんその姿勢を批判するのはお門違いなのは判っている。僕だってhambleで買ったゲームは数多い。Summer/Holidayセールでは毎回大量にゲームを買っている。

けれど、常日頃”ゲーム語り”で承認欲求を満たし、そこまでゲームが大好きな好事家ならば、矜持ってものがあるだろう…と思ってしまう。

 

異常気象で地表の全ての家畜・動物が絶滅し、日照不足で植物も育たず、生き延びた人間がひたすら「共食い」する世界が舞台の、コーマック・マッカーシー『ザ・ロード』。主人公である父子はいかに困窮しようが人肉食を絶対に行わず、”善人”として生きることを選ぶ自らを、「火を運ぶ者」と呼ぶ。

「火を運ぶ者」は単に人食いをしない、という事だけではない。道中で出会い、やむを得ず見捨てざるをえない哀れな人々に対する感情、路上に転がっている見知らぬ誰かの死体を漁る行為。それら全ての行動に対して「仕方ない」で済ましたり、思考停止するのではなく、常に「自覚的」であろうとする尊さ。それこそが「火を運ぶ者」を指すのだろう。

 

僕は今まで通り、好きなゲームに対しては可能な限り、自分の考える「正当な対価」を払うつもりだ。しかしこれからも、75%OFFになったゲームを衝動的に買うだろう。bundleも利用する事もままあるだろう。無料配布されたゲームのKeyも普通に入手するだろう。

だけど、僕はビデオゲームに対して「火を運ぶ者」であり続けたい。 そう思う。

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